ERB評論集 Criticsisms for ERB


外国マンガ評論家 小野耕世
「ターザンに賭けるラス・マニング」

ツル・コミック社『王者ターザン』解説より

1972


 まず、忘れないでいただきたいのは、ターザンのマンガの登場は、アメリカのコミック史上、非常に重要な意味を持っているということなのだ。
1929年、ハロルド・フォスターが、はじめてターザンを絵物語化して、新聞に連載しはじめたとき、それは、史上最初の冒険活劇コミックスなのであった。
だから、ターザンのコミックスは、冒険マンガの元祖だといってもいい。
また、はだかの人間が、マンガの主人公になったのも、これが最初のことだった。
また、忘れてならないことは、最初のターザン・コミックスは、きわめて、原作に忠実だったということである。
 その後、さまざまなマンガ家によって、ターザン・コミックスが描かれたが、ストーリィの上で、いろいろな変化はあっても、ターザンの基本的なイメージは、原作に近いものだった。
最もターザンのイメージをゆがめたのは、映画なのであって、マンガではない。この点、どうか、誤解しないでいただきたい。
とくに、映画がトーキーとなって、1932年以後、有名なオリンピック水泳選手、ジョニー・ワイズミューラーが、主演するようになって以来、ターザン映画は、たいへんな人気を呼ぶことになるのだが、同時に、原作とはかけ離れて、英語もロクにしやべれない原始の男ターザンのイメージを、一般に、強く印象づける結果になつた。
 なんといっても、マンガより、映画のイメージのほうが強い。
世界中の活劇ファンの多くは、ワイズミューラーのスクリーン上の活躍を通じて、ターザンを知ったのにちがいない。
では、このコミックス版のターザンの作者、ラス・マニングはどうだろうか? マニングは、いま、自分のすべてを、ターザンの新聞連載マンガに注ぎこんでおり、ほかの仕事は、いっさい断わっている。全エネルギーをけ傾て、ターザンを描いている。
 まず、ひと目で印象に残るのは、その絵がていねいで、華麗なことだ。
優雅な芙しさがある。
ジャングルの木々の描写も克明で、うるおいがある。
そしてこれは、マニングのターザン・コミックスの楽しい特徴なのだが、登場してくる女性たちが、それぞれ個性ゆたかで、美しいということだ。
それも、どちらかというと、西洋的というより、われわれ日本人にも親しみやすい、黒い髪と、瞳のバッチリとした美女が描かれており、それが、ターザンの世界に、はなやかな色どりを添えている。
 マニングは、女性を楽しんで描いているようだ。
ストーリィは、原作に基づきながらも、むしろ原作よりも、多彩なサブ・プロットを巧みに組み含わせ、変化に富んだ物語の流れをつくっている。
読者は、思いきり空想の翼をのばした、奇想天外な活劇を楽しむことができる。
そして、マニングの絵のやさしさは、心地よいものだ。
『このコミックスを通じて、私は、読者のみなさんに、ウンザリするような日常を忘れさせ、まったく新しい、異常な、わくわくするようなターザンの世界に、ひつぱりこんでいきたいのだ。これこそ、われわれみんなが、いま求めている、ファンタジィな世界なのだから――』と、マニングは語っている。


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