ERB評論集 Criticsisms for ERB


厚木淳「武部SFアートの魅力」

武部本一郎SFアート傑作集2 月下の魔女たち」解説

Nov.1981


 昭和40年、文庫といえばあの簡素な岩波文庫の装偵がまだイメージの中心にある頃だった。創元推理文庫で刊行するバローズの「火星シリーズ」に表紙絵、口絵、それに挿絵をつけて、SF特有の視覚効果を強調してはどうかというアイディアが浮かんだ。
 バローズの戦前版の原書にも口絵は1枚ついていた。しかしそれは白黒版で、作者がごひいきにしたA・セント・ジョンの絵などは古色蒼然、サイレント時代のハリウッド映画の一駒を見るような趣だし、戦後版のペイパーバックは表紙絵だけ、大人も楽しめる絵本をつくろうというこちらの狙いとはそぐわなかった。
 16年前の当時、今から思えば隔世の感があるが、SFの普及はやっと黎明期を脱したばかりで、よく使われる表現にしたがえば、SFはまだ市民権を獲得していなかった。当然SFアートの世界は空白も同然で、画家の選定は難航した。武部画伯にお願いすることにしたのは、多数の児童図書を渉猟した結果だった。依頼に参上すると画伯は言下に快諾してくださり、こうしてできあがったのが『火星のプリンセス』のあの華麗なイラスト、絢燗たる武部SFアートの開幕である。刊行と同時に内外におけるその反響は、実にけたたましいものがあった。
 第1巻の解説で野田昌宏氏が触れているように、アメリカ本国ではバローズ書誌学の権威、H・H・ヘインズや、バローズ本の有名なコレクター、C・カサドジュといった鉾々たる大家が、バローズの挿絵を手がけた画家はアメリカでも数多いが、武部イラストの右にでるものはないと、早速絶讃の言葉をよせてきた。そして一時期、版元にはアメリカ、イギリス、さらには台湾、韓国(駐留米軍のSFファンか?)からの直接注文があいつぎ、あげくのはては『火星のプリンセス』の表紙絵と解説をそっくり盗用した韓国語訳の海賊版まで出回るという、いささか不愉快なおまけまでついてしまった。
 戦前のA・セント・ジョン、ロイ・クレンケルからマーロン・ブレーン、ラリー・アイヴィ、リード・クランデル、フランク・フラゼッタといった一流のSFアーティストを尻目に、本国のSFファンを驚倒させた武部イラストの魅力は奈辺にあるのだろう?
 適確なデッサンカ、ダイナミックな構図、豊かな色彩感覚等、理由は多々あるはずだが、ここではごく単純明解な事実を一つ指摘しておきたい。それは白人が見ようと日本人が見ようと、武部イラストの芙女がいちばんの美人だという点である。バローズのヒロインは王国のプリンセスが多く、したがって美しいだけではなく気品が要求されるが、その点、武部イラストの美女はハンサムな女性のオン・パレードで、原作の雰囲気とぴったり一致するのだ。ハンサムというのは本来、美男子のことだが、女性の形容に使う場合は、彫りの深い、きりっとした顔立ちのことをいう。ハンサムな美女こそは洋の東西を間わず、永遠の美女の一典型であろう。
 武部画伯がアメリカのSFアーティストたちをどう見ていたか、これは日本のファンにも興昧のあるところだろう。晩年、画伯はフラゼッタの絵をしきりにほめて、フラゼッタの女性の描き方、特に腰のあたりの豊満な感じの描法を自分もなんとかとりいれようとしているのだが、なかなかうまくいかないと再三口にしておられた。こちらは素人なので、画家が画家を見る目とは、そういうものかと独り含点したに留まったが――。
 武部本一郎が天成の画家であることを示すエビソードにはこと欠かない。中学生の頃、学校に行っても授業中に人目を盗んで絵ばかり描いていたという。絵が好きで、絵を描きたいという夢が昴じてとうとうプロの画家になってしまったが、芸術家に貧乏はつきもので、若い頃は経済的にひどく苦労されたらしい。これは画伯の口からじかにうかがったことだが、若い頃、京都で京都新聞社賞か何かを受賞したことがあった。ところが新しいカンバスを買う金がない。しかし絵は描きたいというわけで、とうとうその受賞作の絵をそっくり削りとって、そのカンバスにまた新しい絵を描いて渇をいやしたことがあるという今にして思えば惜しいことをしたと、画伯は長嘆息なさった。栄えある受賞作吊を削り落としてまでも燃え上がる強烈な創作意欲。こんな画家は、まだほかにもいるのだろうか? この話はいまだに強い印象となって、わたしの耳架に残っている。
 ともあれ、E・R・バローズを筆頭として多くの海外SF作家が、武部イラストを介して極東の日本に、多数の知已を見出したのである。日本にSFアートという新分野を確立したパイオニアとして、武部本一郎の画業と功績は永遠に不滅であろう。

魔法の世界エストカーブ(P4,5)

 アメリカの女流SF作家アンドレ・ノートンの〈ウィッチ・ワーノレド・シリーズ〉全5巻の第1作。60年代を代表するファンタジーの一つ。アメリカの陸軍中佐サイモン・トリガースは地球から未知の惑星へとテレボートされた。彼が到着したのは、魔法を使う女性たちによって守られた国エストカープである。しかしその惑星上にはコーノレダーという謎の新勢力が台頭し、今やその侵囲各の目標はエストカープにまで及んできた。超科学カを駆使する敵。これを迎え撃つ古い魔法の国。魔女たちはいずれも、天職のしるしであり、護符でもある曇った楕円形の宝石を身に帯びていた。

 コールダーとの戦い。エストカープ軍の先頭に立った魔女の一人が宝石をかざし呪文を唱えると、一条の閃光が発して敵軍がひそむ岩層にあたった――。

魔法の世界の凱歌(P6,7)

 シリーズ第2作。主人公のサイモンは強敵コールダーと戦う過程で芙しい魔女と結ばれた。その美しい魔女のジェライスが魔力を秘めた〈ヴォルトの斧〉と、エストカープの同盟国フォルコーナーから派遣された白い鷹を支えている。

 コールダーの本拠地に乗り込んだサイモンとジェライス。コールダーの軍勢はすべて、彼らが征服して殺した死者たちだった。敵のビーム兵器で骸骨をなぎ倒すサイモン。

魔法の世界の三兄妹(P8,9)

 エストカープの征服に失敗した謎のコールダーは、異次元の世界へと退敵した。シリーズの第3作からは、サイモンとジェライスの禁断の結婚から生まれた三つ子の兄妹が登場する。彼らはそれぞれ、戦士と予言者と魔女となる天賦の才能を持っていた。そこでエストカーブの魔女団は妹のキャステアを誘拐して、自分たちの衰えゆく魔力を補強しようとする。その妹を魔女たちの本部〈知恵の園〉から救出して、不気昧な夜道を急ぐ三兄妹。この巻の主人公は長兄のキランである。

 逃走の旅をつづける三兄妹の前に舞い降りた烏と無言の間答を交わすキャステア。この鳥は実はフラナンという翼を持った鳥人間の変身なのだ。烏の姿態と赤い手脚が実に印象的。

魔法の世界の幻術(P10,11)

 このシリーズは、巻を追うごとに魔法と呪術が濃厚の度を増していく。第4作の主人公はキランの弟のケモク。魔女団の虎口を脱した三兄妹はエスコアにたどりついたが、キャステアの魔法がはからずも邪悪な勢力の目を覚ましてしまった。コケ人間や水生人間をはじめ、つぎつぎに奇怪な半人半獣が出現し、キャステアはふたたび行方不明になる。それを必死に追うケモクは墓場から発見した黄金の剣に導かれて、〈影の勢力〉の本拠地「闇の塔」へと向かう。

 〈影〉の魔力によってガマに変身させられたケモクは、自分と同じ姿をしたがマ人間に襲われた。そのとき彼を救ったのは、金色の光の矢のように、ひとりでに突進していった黄金の剣であった。

魔法の世界の夜明け(P12,13)

 三兄妹が活躍する三部作の最終巻では、当然妹のキャステアが主人公となる。エストカープに向けて旅立ったキャステアは途中でヴァプサル族に捕之られる。絵は、左が族長の妻アイリア、右がヴァプサル族の風習にしたがって乳房に絵具で化粧を施されたキャステア。武部イラストでは珍らしく、工ロチシズムを前面に押しだした絵。

 異次元世界にさまよいこんだキャステアとアイリアは、科学兵器を駆使する地下砦の支配者ザンダーの捕虜となったが、同じように捕われの身となっていた魔法使ヒラリオンと協カして、科学対魔法の、手に汗握る対決をする。彼がザンダー配下の灰色の小人を魔法の杖で焼き殺して脱出する場面。

金星を襲う青い原子(P15)

 パルプ・マガジン作家R・M・ウィリアムズの典型的なスペース・オペラ。宇宙の支配民族〈大いなる種族〉の反逆者が封じこめられていた長い眠りから目をさまし、直径1メートル半の水晶を載く究極の万能機械“青い原子”を使って人類を支配しようと試みる。地球の美人考古学者ケイ・マッケイはこのことを知り、金星にある〈宇宙開拓者同盟〉の総裁ジャールに助けを求めたのだが、彼女は彼の目の前で’青い原子”の青い輝きに呑みこまれ、いずこへともなく姿を消してしまった――。

失われた時間の鍵(P17)

 アンドレ・ノートンの〈タイム・エージェント・シリーズ〉の第4巻。時間の流れを逆行するうちに発見した異星の難破宇宙船。そこに積まれていたのは1万年前の宇宙旅行ガイドだった。時間諜報員ロス・マードックは、ガイドに導かれて海洋惑星ハワイカにやってくる。彼を助けるのは美女のカララと、人間に匹敵する知能を持った2頭のイルカである。左上に宇宙からの侵略者、禿頭人の姿も見える。

運命号の冒険(P19)

 デイヴィッド・グリンネル作。グリンネルはSF界の名編集者D・A・ウォルハイムのペンネームで、これは未来のドン・キホーテ物語。若い億万長者アジャックス・コーキンズは、ひょんなことから知りあった蜘蛛型火星人ワジをお供に、見果てぬ夢、自分の王国を築くため、木星の近くにある小惑星に向かう。彼の無謀な冒険を阻止すべく送りこまれた美しい政府調査員エミリィも、ついにはアジャックスが操る小型誘導ミサイルのとりこになってしまった。

宇宙の秘密の扉(P21)

 アメリカの人気作家マリオン・Z・ブラッドリイの〈ダーコーヴァー・ノヴェル〉の第1巻。惑星ウルフは亜人間や半人間の住む異境である。秘密情報部員レイス・力一ギルは彼と妹を裏切って行方をくらました妹の夫を追って、惑星ウルフの宇宙港をとびだした。そんな彼の前に出現したのは、白いローブをまとった黒がラスのような髪の、ほっそりした女。その胸には、ぶざまに手足を広げたひき蛙の神の姿が縫いとりされていた。

未知なる銀河航路(P23)

 アンドレ・ノートンの〈タイム・エージェント・シリーズ〉の第2巻。3人の時間諜報則よ、1万年前のアメリカ大陸で異星の難破宇宙船を発見、これをそのまま堤代へ移送しようと試みるが、事故のため宇宙船は白動的に動き出してしまった。やがて到着した先は、とんがり屋根の塔が立ち並ぷ異星の都市。四つ目の美しい有翼生物や、紫色の肌、縦に裂けめがはいった鼻、こうもりのような翼を持つ亜人類が彼らを出迎えた。

不時着した円盤の謎(P25)

 〈タイム・工一ジェント・シリーズ〉第1巻。20世紀末の世界に敵意を抱いていた青年ロス・マードックは逮捕され、裁判の結果、二者択一を迫られた。危険な任務の時間諜報員を志願するか、それとも頭脳破壌処置を受けるか一1行動力にあふれるヒーロー、マードックの右に描かれているのは、騎馬族の長フォスカーか? 緑色に浮かびあがった禿頭の異星人の不気昧さが印象的。

宇宙の放浪怪物(P27)

 ジェイムズ・ブリッシュの作品。アメリカのミシがン州に発生した山火事。しかし火災の中心で見つかったのは、強い放射能を放ち、華氏2,000度の表面温度を持つカプセル型の謎の宇宙船だった。米軍将兵や原子力委員会の面々が見守る中で、やがてその中から姿を現わしたのは、身の丈5メートル、6本指の手がついた2本ずつの手足を持つ、生物ともロボットともつかない真黒なモンスターであった。

恐怖の火星争奪戦(P29)

 女流冒険SF作家リイ・ブラケットのスペース・オペラ。地球から進出した企業の圧制の下で滅亡への道をたどっている火星。紅い瞳の火星人の老婆から謎の預言を受けたリックは、火星統一のため命がけの大活躍を演じることになる。緑の衣裳をまとったメイヨの姿もさることながら、翼を持った小柄な種族の少女キラのシルエットが美しい。

異星界の浦島太郎(P31)

 「SFファンタジア」の〈神話と伝説にみる異境体験〉の項に描いたイラスト。有名な浦島説話にSF的解釈を施せば、太郎は人工冬眠装置つきの恒星間宇宙船(亀)で異星の海上都市(竜宮城)に運ばれ、プリンセス(乙姫様)といっしょに3年間を楽しくすごして地球に送りかえしてもらったが、超光速飛行のせいで相対時差〈ローレンツの収縮〉が働いて、地球では300年もの時間が経過していたということになる。文部省唱歌に曰く――帰ってみればこはいかに、元いた家も村もなく、道に行きあう人々は、顔も知らない者ばかり。

生きている首(P32,33)

 原題「ドウエル教授の首」。A・ベリャーエフ作のソヴィエトの古典的SF。人間の頭脳を別の人間のからだに移植して合成人間をつくるというのは昔からあるSFのテーマで、これもその一つ。人体の臓器の移植手術の権威ドウエル教授は腹黒い弟子のケルン教授に一服盛られ、今は首だけが生きているというありさま。ケルンは首だけのドウエル教授から移植手術の指導を受け、その成果と名誉を独占しようとしているのだ。ケルンのうしろ暗い秘密を知った助手のローランは精神病院に監禁されてしまう。

 助手のローランは、ケルンの研究室で初めてドウエル教授や、そのほかの実験材料の生きている不気昧な首を見て、腰を抜かさんばかりに驚いた――。

宇宙の勝利者(P34,35)

 ゴードン・R・ディクスン作のジュビナイルSF。ある日、地球にやってきた宇宙人は、全地球の高校生の中から宇宙への留学生をつのった。厳しい試験に含格したジムとカート、そして女子高校生のエレンの3人は、リスのような姿をした宇宙人ピーブとともに宇宙連合の惑星へと向かった。ところが途中で宇宙船が故障したため、クェバール星に不時着をよぎなくされる。そこは人間型、カンガルー型、胴虫類型の3種類の知的生物が住む、地球の中世さながらの世界だった。

 六尺棒をかまえて、カンガルー型のワラット族と対決するカート。

月のプリンセス(P36,37)

 E・R・バローズのく月シリーズ〉3部作の第1部。荒涼たる不毛の月世界に不時着することになった宇宙船は、地表に無数にあいた噴火口の一つを経由して、月の地下世界に着陸した。そこでは野蛮なカルカール人と文明を持つレイス人が覇権を争って戦っていた。その角逐に巻き込まれた地球の快男子ジュアン5世は月のブリンセス、ナー=イー=ラーと結ばれるが――。

 月の文明都市レイスの人間は、空気よりも軽いガスをつめたバックを背中につけ、飛行翼を使って空中を飛ぷ。野蛮なカルカール人に攻められて落城寸前の宮殿から脱出を試みるヒーローとヒロイン。これは画伯が亡くなる2年前の作品だが、翼の描写が示すように、原画では見る者が思わず息を呑むほどの精巧な筆致で描かれた晩年の絵がいくつかある。第3巻に収録される『密林の謎の王国』のカンボジアの王女の装飾や『モンスター13号』のオランウータンなどもそれにあたる。

月からの侵略(P38,39)

 シリーズの第1部はスペース・オペラであるが、2部と3部を1巻にまとめた本書は、21世紀から25世紀へかけての400年に及ぷ地球の未来史であり、社会派SFの先駆的作品である。月人によって征服され武装解除された地球。支配者は共産主義体制をしいて言論と信仰の自由を抑圧し、地球人は奴隷も同然の状態。月からの解放と独立を旗印に敢然と立ちあがった大曾長ジュリアン20世は、カルカールの巨人ラバンと対決する。

 地球に侵攻してきた月人の宇宙艦隊。そのすぐれた科学兵器によって地球軍は壊滅する。

ゴルの巨鳥戦士(P40,41)

 〈反地球の不思議な歴史〉という副題を持つシリーズ。どうやらバローズは、本編の作者ジョン・ノーマンの中に最上の後継者を見出したようだ。そしてそこから生まれたイラストレイターとしての共感のせいだろうか、このシリーズの絵には特に精彩がある。
 惑星ゴルは太陽をはさんで地球と正反対に位置しており、全能の神に等しい神官王が支配している。その神官王の意志により、地球人タール・キャボットは銀色の円盤に乗せられてゴルに運行され、戦士として巨烏タルンの操縦を学ぷ。

 捕虜となったタールは〈屈辱の筏〉の刑に処せられて河に流された。餌をみつけて襲いかかる樺猛な野性のタルン。

ゴルの無法者(P42,43)

 神官王の意志により、いったん地球にもどされたタール・キャボットは7年後、ふたたび円盤に乗せられて惑星ゴルに到着した。しかし彼が所属した故郷の都市は神官王によって破壊され、いとしい妻のタレーナも行方不明。探索の旅に出た彼は、女王の支配する都市国家タルナの政争に巻きこまれた。クーデターに失敗し、タルンの吊す籠によって脱出するドルナ。

 ゴルに到着して早々、タール・キャボットは、夜道で6本足の胴長の食肉動物スリーンに襲われる。左右に人と怪獣を描きわけた迫力のある構図。

ゴルの神官王(P44,45)

 惑星ゴルの文明は地球のローマ時代程度のものだった。しかるに下界の人間には姿を見せない神官王たちは、重力をコントロールして、太古の昔この惑星を、別の銀河系から現在の位置へと移動させたほどの科学力を持っているという。事実、彼らは円盤を太陽系宇宙に白由自在に派遺しているではないか。タール・キャボットはこの謎の神官王の正体をあばいて対決すべく、かつて生還した者は一人としていないという禁断のサルダル山脈に乗りこんで行った。神官王の天敵、黄金の甲虫と戦うタール・キャボット。

 神官王は体長6メートル、幅1メートルもある巨大な昆虫だった。彼らは200万年の長寿を維持し、人智にまさる自然科学を開発し――。

石器時代から来た男(P46,47)

 タイム・トラベル・テーマのSFで、バローズを代表する名作の一つ。石器時代のある日、相思相愛の男女が大地震に見舞われ、若者は洞窟の中に生き埋めになった。そして10万年が経過する。いっぽう娘のほうは何度となく生まれかわって、20世紀のアメリカ女性になっていた。原始の男と文明の女を結ぷ不滅の恋。恋する娘に捧げる剣歯虎の首をかつぐヒーローと、10万年の時間をへだてて左右に並ぷその恋人。

 10万年前、その当時ですらほとんど絶滅していたはずの巨大な大翼竜にさらわれて、ひなの餌にされそうになるヒロインのナット=ウル。

石器時代へ行った男(P48,49)

 E・R・バローズ作。南太平洋で遭難したボストンの富豪の一人息子は、とある孤島に漂着した。そこは文明と隔絶して数十万年を経過してきた石器時代の島だった。虚弱で臆病で孤立無援の青年は野蛮な原住民や猛獣の迫害を切り抜けないかぎり、生き延びる望みはない。彼はたまたま原住民の美少女と知りあったが、その娘の気品は無言のうちに出生の謎を告げていた!

 たくましい勇者へと変貌していくウォルドーは、夜道で大型の黒豹に襲われた――。

失われた大陸(P50,51)

 バローズならではの洞察力に満ちた、人類破滅テーマのSF。20世紀後半の世界大戦の結果、地球は三分割されてしまった。南北アメリカ大陸を統合した白人国家のパン=アメリカ運邦、アジア大陸からロシアまでを併含した中国帝国、アフリカから中近東を征服したエチオピアの黒人帝国の三つである。パン=アメリカ運邦の海軍大尉ジェファースン・タークは国禁を犯して、200年前の世界大戦以来、荒廃して原始時代に逆行していたイギリスに入国する。彼がそこで知りあったのは、なんと七つの海を支配したビクトリア女王の末裔である丸裸のお姫さま――。

 ヨーロッパを戦場にして中国勢と雌雄を決すべく、近代兵器とともに象やラクダやハーレムの美女を率いてウンター・デン・リンデンを行進する異国情緒にあふれるメネレク14世の大軍。


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