ERB評論集 Criticsisms for ERB


野田昌宏「E・R・バロウズとペルシダー・シリーズ」

ハヤカワSFシリーズ地底世界ペルシダー解説より

Aug.1966


 長いことターザンの作者としてしか知られていなかったエドガー・ライス・バロウズの名も、ここ2、3年、ようやくその全貌が日本の読者の間に知られるようになってきたことは本当によろこばしい。
 すでにあちこちで紹介済みだが、〈ベルシダー〉シリーズ邦訳第1弾ともなれば、ここでやはり彼の略歴を簡単に書いておく必要があるだろう。
 1875年9月1日、シカゴに生れる。父親は南北戦争当時、南軍の少佐、その影響をうけてか、エドガー少年は大変な兵隊好き。親が学校教育を受けさせようと試みるのもそっちのけで支那陸軍に参加を申し込んで断られたり、ジェロニモ討伐に参加する第七騎兵隊にもぐり込み、未成年であることが発覚して追ン出されたりした。
 1900年、結婚。二男一女をもうける。1913年までの間にセールスマンや事務員として西部を転々、アイダホ州ではカウボーイや店員、ソルト・レーク・シティーでは鉄道警官、オレゴン州で坑夫などをやったが、すべて失敗。妻の衣類、宝石を売ってその日の糧を得る。
 1910年、小さな薬屋の店員としてうだつのあがらぬ毎日、ふと目を通した古雑誌に出ていた小説の愚劣さに呆れ果てて、大冒険小説(13世紀のイギリスが舞台になっている)をオール・ストーリー誌に持ち込んだが、あっけなく没となる。
 1912年、Under the Moons of Mars『火星の月の下で』がオール・ストーリー誌に採用された。これが火星シリーズの第一作。1913年、ターザンものの第一作、Tarzan of the Apes『類猿人ターザン』が爆発的な反響を呼ぶ。
 この作品の成功によって彼の作家としての地位は不動のものとなり、以後ターザンもの29篇、火星もの12篇、地底もの7篇、金星もの5篇などを含む計109篇の作品を世に送った。(ここに挙げた各シリーズの作品数はH・H・ヘインズ篇のビブリオグラフィーに基づく単行本の冊数、また全作品109篇とは短篇などを含む数である)
 1918年から一カ年、長年の念願がかない陸軍少佐として軍に籍を置く。同年、カリフォルニア州ロスアンゼルス市郊外に牧場を買い、ターザナと命名。のちにこの一帯に町制が施行された際、これをとって、そのままターザナが町名となり、今日に至る。
 1931年、ターザナに、自分の作品を専門に出版する出版社を設立。今も二人の息子が経営している。
 1932年、ジョニイ・ワイズミューラー主演によるターザン映画が凄まじいヒット振りを見せた。(映画化は1918年から行われている)
 1934年、離婚。
 1935年、再婚。その頃よりハワイに住む。
 1941年、再び離婚、真珠湾攻撃に出会う。太平洋戦争中はロスアンゼルス。タイムスの特派員としてブーゲンビルからマリアナにかけて従軍。
 1950年3月19日、死去。――以上がごく大ざっぱな彼の年譜である。

 原作がこうして邦訳されたからには、もういまさらここでバロウズの面白さをくだくだしく書き立てる必要はないだろう。地球の内部が空洞になっていてそこにもうひとつ太陽が輝き、凹面になっている地上(!)には地底人どもの文明がひらけているというとんでもない発想は彼のオリジナルではなく、18世紀中頃から扱われているテーマだけれど(これについてはまたくわしく紹介する機会もあると思う)、デヴィッド・イネスとアブナー・ペリーの二人がくりひろげる恋と冒険の物語は回を重ねるごとに白熱し、第四作では御存知ターザンまでが噛み込んできて、その面白さはきっとすべての読者を魅了せずにはおかないだろう。
 文末の作品表を見ていただげばわかるように、ペルシダー・シリーズ全7篇の執筆年代は30年間におよび、また発表年代からいくと実に40年間以上にもわたっていることになる。その中で第1作と2作、3作と4作、そして5作、6作、と4つのグループに大別することができる。第7作は1940年初期にペルシダーもののエピソード風の中篇として発表された4篇を1963年になってまとめたものである。
 どうぞゆっくりとバロウズの面白さを御堪能下さい。終りにペルシダーものの一覧表を挙げておこう。
  1. 『地底世界ペルシダー』At the Earth's Core 〈オール・ストーリー〉誌1914年4月号より4回連載。本書
  2. 『危機のペルシダー』Pellucidar 〈オール・ストーリー・カヴァリア〉誌1914年5月号より5回連載
  3. 『戦乱のペルシダー』Tanar of Pellucidar 〈ブルー・ブック〉誌1929年3月号より6回連載
  4. 『地底世界のターザン』Tarzan at the Earth's core 〈ブルー・ブック〉誌1929年9月号より6回連載
  5. 『栄光のペルシダー』Back to the Stone Age 〈アーゴシイ〉誌1937年9月号より6回連載(Seven Worlds to Conquerの名で)
  6. 『恐怖のペルシダー』Land of Terror 1944年
  7. 『ペルシダーに還る』Savage Pellucidar 1963年

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