ERB評論集 Criticsisms for ERB


野田昌宏「デジャー・ソリス わがマリアさま」

創元SF文庫刊合本版・火星シリーズ第1集 火星のプリンセス』より

Jun.1999


 東京創元社版〈火星シリーズ〉が引き起こした衝撃は、国内よりむしろE・R・バローズの本家アメリカを真ッ正面から襲ったというべきだろう。
 言うまでもなく、武部本一郎の素晴らしくユニークなイラストの数々のことである。彼の構築した火星空間は、世界中のバローズ・ファンが想像もしていなかったユニークなデザインのハードウェア類と色気あふれる豊麗な美女たちを生み出した。
 多くのバローズ・ファンにとって、大切なのは地球からテレポートされた豪傑ジョン・カーターより火星の美女デジャー・ソリスなわけで、アレン・セントジョンに代表される彼女のイラストや表紙絵の原画は数千〜数万ドルで取り引きされており、リトル・トウキョウで買ったのか、日本の神棚や仏壇にそんな原画を奉っている阿呆が私の知るかぎりでも数人いる……。まさにマリアさまなのである。
 にもかかわらず、バローズの全作品を通し、彼女たちが貞操の危機に晒されるシーンはまったくない。これを、安心して読めると見るか、寂しいと見るかは君の品性の問題であろうが、武部本一郎のデジャー・ソリス像が爆発的な人気を呼んだ蔭には、後者のスタンスであらぬ妄想に耽る不定の輩を多数生んだことがあるのではないのかな?
この本の表紙絵は権利者である故武部本一郎夫人・武部鈴江さんの許諾により転載しています


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