ジョン・カーターのライヴァル達

スカイラーク・シリーズ
Skylark series

エドワード・E・スミス:著/中村能三:訳 東京創元社/創元推理文庫


history/初出

  1. 『宇宙のスカイラーク』
  2. 『スカイラーク3号』
  3. 『ヴァレロンのスカイラーク』
  4. 『スカイラーク対デュケーヌ』

comment/コメント

 〈スカイラーク・シリーズ〉といえば元祖スペース・オペラと呼びたくなる永遠の名作だが、最初に読んだとき、「これは宇宙にバローズのパターンを持ち込んだものだ」ということがわかった。
 おかしな言い方だと思うかもしれないが、そういいたくなるほどにバローズのパターンを持ち込んだストーリイであり、設定だったということだ。
 むろん、そうではない点を上げようと思えばいくらでも上げられる。宇宙船を駆って宇宙を渡航する設定。特定の惑星に活躍の舞台を限定しない。X金属などの疑似科学を持ち出して幻想性は否定する……きわめてSF的アプローチとともに、のちにいわゆるスペース・オペラと呼ばれる作品群に引き継がれていった先駆的な試み。まぎれもなくSF史に残る作品群なのだ。これを模倣などと呼べようか?
 しかし、やはりこの作品はバローズをその源流に持っていることを誰も否定できないと、思うのだ。
 バローズ作品にも影響を与えた先駆的作品をあげることはいくらでもできる。大衆作家だった彼は自分が読んでおもしろいと思い、読者に受けると感じた作品のエッセンスを取り込むことに躊躇することはなかった。さすがに中盤から晩年は自分の世界を作ってシリーズものの再生産に追われる部分はあったが、初期の作品では大胆に先輩作家達の作品からアイディアを拝借している。しかし、それでもバローズはバローズだった。アイディアや設定の一部が過去にあったものと同一であったとしても、そこに書かれたものはバローズが書いたものでしかなく、彼でなければ書かれないものだった。
 しかし、スミスは――この人は、大衆作家としての素養には、欠けていたのだと思う。すぐれたアイディア、大胆な発想は他の追随を許さないレベルだが、物語作家としてはテンでなっていなかった。だから、彼は自分の作品を好むと思われる客層に受け入れられるようにするためにお手本を求めた。それが、バローズだった……。
 これは決して下司の勘ぐりではないと思う。スミスに続くスペオペ作家たち、たとえばハミルトンも、バローズを読んで育ったことを否定するどころか誇らしげに語ってさえいる。
 彼らはバローズにあこがれ、バローズに捧げる作品を書きたかった、しかし同じようなものでは勝負にならないことを知ってもいた。だから、当時はやりつつあった科学的要素を取り込み、それに偏重した作品を量産しはじめた。ズバリ言えばスミス的作品を書こうとした。これならまねてもかまわないと思ったからだ。なぜなら、スミスは彼らのお手本ではなく、同好の仲間であったから……
 スミスが2流の作家だったわけではない。それどころか、これだけの勢力の創始者足り得たのだから、大したタレントの持ち主だったのだ。同時に彼は、すぐれたバローズ・ファンのひとりでもあった。ウソだと思うなら、〈火星シリーズ〉と〈スカイラーク・シリーズ〉を続けて読んでみるといい。
 スミスの作品は、物語としてはバローズの亜流の域を抜け出てはいない。すくなくともデビュー当初の、このころの作品においては。

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