ERB作品感想文集


『ターザンと蟻人間』

ハヤカワ文庫特別版SF『ターザンと蟻人間』


byスズシロ2号

飛行機で回遊へと、しゃれこむターザンですが、「謎の盆地地帯」に目を奪われ、高度を下げすぎた事に気付かず墜落してしまいます。
一命を取り留めたものの意識を失っているターザンの元へ「体つきは人間そっくりだが、どことなく人間と違う」アラリ人が出現。ターザンを自分の住処へ連れて帰ります。
このアラリ人描写が、またユニークで、胸毛を生やした女たちが主導権を握っていて、獲物を争う為には平気で殺し合いもする原始的な所を見せ、言葉もなく、男たちは生殖のためにしか存在しないという女尊男卑な社会を形成。
女が毛深いというのはドワーフ像の影響でしょうか。また男が弱い存在という逆転した世界観も如何にも当時のSF観を反映させているようです。
何とかアラリ人の住処から脱出するターザンは、森でアラリ人の少年に出会います。
少年はやがては生殖のために女たちに狩られる運命なのですが、ターザンは彼に弓や槍の使い方を教え、自立できるよう訓練します。
この為、ついにはアラリ人の男たちは形勢逆転をし、女たちを捕虜にする事に成功するのですが、この辺は当時の男性作家に見られる(オズの魔法使いシリーズのライマン・ボームなど)反フェミニズムの匂いが強いです。けれども女たちを醜く描いている為、ついつい自立する男たちへ喝采を送ってしまう感覚を味わってしまうのも事実。
さて、少年と離れ狩りに出かけたターザンは、そこでアラリ人の女へ一斉に立ち向かう小人の群れに出会います。ミヌニ民族と呼ばれる彼らを助けた事で、小人の国へ向かうターザン。
アラリ人とミヌニ民族との対比は面白いのですが、両者がどの様に物語的に絡まっていくのかと期待すると、あまり相関は無く進行していきます。ここからはミヌニ民族世界でのターザンの活躍が始まります。
王子コモドフロレンサルとも仲良くなり、ある日、敵国ヴェルトプティスマクスとの戦争にターザンも参加する事に。
「巨人」であるターザンは活躍しますが、あまりにも多くの兵隊に攻め込まれ、意識を失い、敵国に連れ去られます。
捕虜になったターザンが意識を戻すと、体が小人たちと同じ大きさになっていました。魔術学者の秘術で縮められたのです。
まだ第一巻しか読んだ事の無い私にしてみれば、このヒロイックファンタジー的な展開は驚きなのですが、バロウズがSF作家であるという事に立ち返れば、こういう筋書きの方が王道なのかもしれません。
高慢な女王ジャンザラや顔を老婆に変える事が出来る美人奴隷タラスカルと出会い、共に捕虜となった王子コモドフロレンサルと脱出を試みます。
幾多の策略を駆使し、タラスカルを救出し、ジャンザラを人質に脱出成功。
コモドフロレンサルはタラスカルに求婚し、ジャンザラも本当に愛する男と自国を抜け出しコモドフロレンサルの国で幸せに暮らします。
急激にハッピーエンディングへ向かうといった感じで、何とか収束させたという印象はぬぐえないのですが、そこは作家の力量のゆえか、上手くまとまっています。
最後は元の世界に戻ったターザンが白痴状態になるという、今からすればショッキングな終わり方ですが、ジェーンが手の平を顔に当てる事により彼は記憶を取り戻します。まるで今までの事が夢であったかのように。
全体的に見れば、ターザンが他のヒロイックファンタジーの様に英雄視されない書き方なのですが、その辺がもしかしたらバロウズにとってのリアリティなのかもしれないですね。

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