バローズ世界の研究 Study of ERB Worlds

火星の度量衡(距離単位)
Linear Measurements of Barsoom


 バローズの作品の魅力の一つに、言語や文化まで創造してしまう異世界がある。バローズが創造した魅力的な異世界の中でもとびきり印象深いバルスーム(火星)の文化、その中でも度量衡に焦点を当ててまとめてみることにした。敵艦隊との距離が2000フィート、あるいは600mと表記されるよりは200アドのところにゾダンガの軍勢が、と書かれていた方がずっと趣がでるというもの。そういうところまで作ってしまうところがバローズのうまさだし、それを計算づくではなくてノリだけでやってしまうところが天性なんだろうなと思う。後年のアムターやポロダは計算づくのところが見えて記述もくどい感じがあるんだけど、さすがは処女作に連なるシリーズ、バルスームは記述が多いわりに雰囲気を壊さず、むしろうまく演出している。……ごたくはこれくらいにして、内容に移っていこう。

 火星の距離単位の常用基準はアドである。地球のフィートに相当し11.694インチ。わたくし(ERB)は読者の便宜を思って、従来どおり火星の距離単位、時間単位などを地球の尺度に換算してきたのだが、好学心のある読者諸氏には、あるいは火星の尺度に興味があろうかとも考え、次にこれを掲げる。
10ソファド=1アド
200アド=1ハアド
100ハアド=1カラド
360カラド=火星赤道円周
 1ハアドすなわち1火星マイルは2,339フィート。1カラドは火星緯度の1度。1ソファドは1.17インチ。

以上、『火星の幻兵団』第6章より 

 いきなり引用。こういった記述に困らないのが〈火星シリーズ〉のいいところ。ただこれではアメリカ人ならともかくヤードポンド法になじみのない日本人にはつらいものがあるので、メートル法に換算してみることにしよう。

1ソファド = 1.1694インチ = 2.97cm (火星インチ)
10ソファド = 1アド = 11.694インチ = 29.7cm (火星フィート)
200アド = 1ハアド = 195フィート = 59.4m

 いきなりおかしなことになってきてしまった。1ハアドは2,339フィートのはずが、どこかで10倍以上もずれてきてしまったではないか。だが、相手は異星の文化。一筋縄でいかないのがむしろ当たり前。悩んでいても始まらないので、ここは気を取り直して1ハアド=2339フィートを起点に計算を続けることにしよう。

1ハアド = 2,339フィート = 713m (約0.5マイル)
100ハアド = 1カラド = 44.6マイル = 71.3km
360カラド = 赤道円周 = 16,040マイル = 25,665km

 火星の赤道半径は3,397km(東京天文台編纂『理科年表』より)であるから、赤道が真円であるとすると、赤道円周は21,344kmとなる。これは上の表からみちびかれた25,665kmにまずまず近い数字なので、信用しても良さそうだ。となると前半の表に誤りがあることになる。そこで、ふたたび1ハアド=2,339フィートを起点に逆算してみることにする。

1ハアド = 2,339フィート = 713m (約0.5マイル)
1/200ハアド = 1アド = 11.7フィート = 3.56m
1/10アド = 1ソファド = 1.17フィート = 35.6cm

 どうもバローズはフィートとインチの単位を間違えていたくさいという推測がでてきた。しかし、だとすると「アドは火星フィートである」とする用語辞典と齟齬をきたしてしまう(ジョーグの足なら3.5mくらいありそうだが)。これは『火星の幻兵団』にこだわらず、他の記述にも目を向ける必要はありそうだ。
 そこはお調子者のバローズのこと、『火星の秘密兵器』に原注というかたちでいくつかの記述を見つけることができた。「1ハアドは地球の1949.0592フィート」そして「1アドは地球の約9.75フィート」。なんと、基準にしていたハアドの長さからして変わってしまった! 勘弁してくれ、という感じだが、換算してみると、1949フィート=23388インチとなる。単位はともかく、2339という数字には生き残る価値はありそうだ。しかも、こちらの方がより後年の記述だし、『火星の秘密兵器』はユリシーズ・パクストンがバローズに語ったとされる物語だ。山師あがりのジョン・カーターより第1次大戦の士官だったパクストンの方がインテリであるのは間違いないし、火星一の科学者ラス・サヴァスに師事したことでもある。数字がらみではこちらを信用する方が間違いはなさそうだ。そこで、改めて換算表を作って全体を眺めてみることにした。

1ソファド = 11.69インチ = 29.7cm (約1フィート)
10ソファド = 1アド = 116.9インチ = 2.97m
200アド = 1ハアド = 1949.0592フィート = 594m
100ハアド = 1カラド = 37.1マイル = 59.4km
360カラド = 赤道円周 = 13,367マイル = 21,387km (正21,344km)

 おお! ソファドやアドは10倍狂ってしまったが、火星赤道円周などはほとんど正解の数値になってしまった! どうやら、単位問題は解決の糸口を見いだしたようだ。というか、2000アド=1ハアドとすればすべて解決しそうである。ここで、単位をひとつ追加して考えてみるとしよう。すなわち、

1ソファド = 1.169インチ = 2.97cm (約1インチ)
10ソファド = 1アド = 11.69インチ = 0.975フィート = 29.7cm (約1フィート)
200アド = 1カアド = 2339インチ = 195フィート = 59.4m
10カアド = 1ハアド = 1949.0592フィート = 0.371マイル = 594m
100ハアド = 1カラド = 37.1マイル = 59.4km
360カラド = 赤道円周 = 13,367マイル = 21,387km (正21,344km)

ホームページ | 創った世界