ERB評論集 Criticsisms for ERB


ドナルド・A・ウォルハイム「失われた大陸/はじめに」

創元推理文庫失われた大陸解説より

Dec.1971


 「失われた大陸」という題名のもとにここに出版する小説が、エドガー・ライス・バローズの作品のなかでも析紙つきの珍品であり、また稀覯本SFであることはまちがいなかろう。これは作者の最初期の作品の1つであり、作者の生存中にはただ1度ぱっとしない雑誌、すなわち〈オール・アラウンド〉誌の1916年2月号に、読みきりの形で活字となっただけである。それには「三十度線の彼方」という風変わりな題名がついていた。
 バローズの収集家でも、もっとも造詣の深い人だけが、この作品の存在を知っていた。いままでわたしはほかの収集家が苦労して本文をタイプした不鮮明な複写紙でこの作品を見ただけであり、そのタイプの写しは、べつの人が後生大事に保管している雑誌からとったものであった。1957年になって初めてバローズ愛好家で企業心のある出版者、ブラッドフォード・デイが限定本を刊行し、「三十度線の彼方」が手にはいるようになった。
 ところで、この珍しい小説にはバローズの正真の作風が表われている――ジャングルの世界におけるはなばなしい冒険に、作者のSF的な、ときには冷笑的な未来観という風味が添えられている。初めて一般読者に提供される今回の版では、題名をもっとわかり易いものに変更した。バローズは第一次世界大戦の初期のあいだに未来の予言をしたわけだが、それでもなお彼の22世紀のビジョンには、さほど見当違いでもなさそうな要素が多々あることに、読者諸氏も賛同なさるものと思う。

――ドナルド・A・ウォルハイム
エイス・ブックス編集長

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