ERB評論集 Criticsisms for ERB


久米元一 「地底恐竜テロドン」について(解説)

偕成社SF名作シリーズ『地底恐竜テロドン』


地球の内部
 最近になって、宇宙に関する科学の進歩はおどろくべきものがあり、実際に、人間が宇宙船にのって月世界へ旅行できる日も、遠いゆめではなくなりました。しかしそのわりに、わたしたち人間がすんぶでいる地球内部のありさまは、まだよくわかっていません。
 学者の推測によると、地球の中心付近は、「コア」とよばれ、鉄やニッケルなどが、数千度の高温で、どろどろにとげているだろう――と想像されていますが、まだだれも、そこまで行ってみた人はありません。
 したがって、地球の内部を物語にえがくことはSF作家たちの絶好の舞台になり、有名なジュール=ベルヌが、一八六四年に書いた『地球の中心への旅』をはじめ、数おおくの名作がでております。
 この『地底恐竜テロドン』は、原題を『地球の中心にて』といって、ターザン物語の作者として世界的に有名なエドガー=ライス=バローズが、一九二二年、四十七才の時に書いた、すばらしくおもしろい冒険小説です。

作者について
 エドガー=バローズは、一八七五年九月一日に、アメリカのシカゴで生まれました。父は南北戦争に従軍した将校でしたから、バローズも少年時代から軍人にあこがれ、ミシガンの陸軍士官学校を卒業すると同時に、志願兵として入隊しましたが、年をいつわって入隊したことがばれて、追いだされてしまいました。
 バローズはその後、アイダホ州でカウボーイをやったり、オレゴンの金鉱で坑夫になったり、ソルトレーク・シティで鉄道警察官になったりしましたが、どの職業も、かれの燃えるような冒険心を満足させることができず、一時は貧乏のどん底におちて、妻の洋服を売って、一家四人がようやうく飢えをしのいだこともありました。
 ある日バローズは、大衆雑誌の冒険小説を読んで、そのくだらなさにはらをたて、
 「こんなものなら、おれのほうがずっとおもしろく書ける。」
 と、生まれてはじめて筆をとり、『火星の生活』というSFものを書いて、雑誌社にもちこみましたが、ことわられてしまいました。
 しかしバローズはあきらめず、一九一二年、アフリカのジャングルを舞台にした『猿人ターザン』を雑誌に連載すると、これがたちまち大好評をはくし、一九一四年に単行本として出版されるにおよんで、アメリカはもちろん、世界各国で熱狂的な歓迎をうけるようになりました。
 それいらい、バローズはターザンものを二十九編書くかたわら、とくいの想像力をはたらかせて、火星もの十二編、地底もの七編、金星もの五編をふくむ、合計百編あまりの物語を書きましたが、そのうちの特におもしろいものが、世界五十八か国の国語に訳されて、これまでに少なくとも四千万人以上の人々に愛読されました。これから見ても、バローズの書くものがいかに人をひきつける力をもっているかということがわかります。ことにターザンものは、映画やテレビでたびたびわが国にも紹介されていますから、たいていのかたが、一度はごらんになっていらっしゃるでしょう。
 一九一八年に、バローズは、カリフォルニア州の南部に牧場を買って、そこで執筆をつづけていましたが、のちにこのあたりが町になり、ターザンの名にちなんで、「ターザナ町」とよばれるようになりました。
 その後バローズは、太平洋戦争中、もちまえの冒険心をはっきして、新聞社の特派員となり、おもに南海方面で、従軍記者として活躍しました。そして、一九五〇年の三月十九日に、満七十四才でなくなりました。

作品と内容
 この本にのせた『地底恐竜テロドン』は、バローズの七編の「地底ものシリーズ」の第一作で、すでにターザンもので成功し、あぶらののりきった時の作品です。
 本文でごらんのように、いいかげんな冒険小説ではなく、科学にもとづいて自由な空想をはたらかせているので、読者に実在感をあたえ、筋のおもしろさとあいまって、ぐんぐん読者をひきずっていく力をもっています。
 またこの作品には、バローズのとくいの文明批判も、くどくならない程度でふくまれています。ターザンものをお読みになったかたは、すでによくごぞんじのように、作者のバローズは、文明に毒された虚偽をにくみ、原始的な純粋さを愛した人でした。
 登場人物の性格も、それぞれたくみに、えがきわけられています。主人公のデビッド青年は、いかにもアメリカ人らしく。開拓精神と進取の気性にとみ、どんな困難にも屈しません、この本をごらんになった少年少女諸君は、きっとデビッド青年が大すきになり、人間はどんなにこまった時でも、あきらめずに努力すれば、かならず道がひらけるものだということが、おわかりになるでしょう。
 この本はもともと、おとなむきに書かれた作品ですが、筋に変化があって、しかもわかりやすく、中生代のジュラ紀や白亜紀に、地球上にすんでいた恐竜や、新生代の怪獣や、猿人などがぞくぞくとでてくるので、少年少女のみなさんにも、きっとよろこんで読んでいただけるでしょう。
 登場人物の中でとくにゆかいなのは、地底人の王女の、美しいダイアンです。気ぐらいが高くて、わがままで、じゃじゃ馬のような王女ダイアンのいったり、したりすることは、きっとみなさんを微笑させることでしょう。きみのわるい恐竜物語の中に、この美しい王女ダイアンを登場させたことは、文字どおり紅一点で、この物語に花をそえています。
 またこの種の冒険物語は、たいていさいごがめでたしめでたしで終わるのですが、この物語は少し変わっていて、地底人フージャの裏切りによって、思いがけぬどんでんがえしがおこり、ハッピー・エンドにはなっていません。その点がかえって、この物語に美しい余韻をのこしているのです。

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