ERB評論集 Criticsisms for ERB


野田昌宏「バローズのすばらしい想像力」

講談社 火星シリーズ6『火星の頭脳交換』解説より

Jun.1967


 この「火星シリーズ」を六巻めまでずうっと読んできたみなさんには、もう、ジョン=カーターがすごくなかよしの友だちみたいに思えるのではありませんか。それから、デジャー=ソリスのほうがすてきだわ──という人や、タルス=タルカスのほうがかっこいいよ──という人も、きっとたくさんあるでしょう。まあいずれにしても、もう、バローズの火星世界とみなさんは切っても切れない縁ができたわけです。
 アメリカでこの「火星シリーズ」が発表された年代をみると、第四巻がでてから第五巻がでるまでに六年、第五巻から第六巻が五年、そして第九巻がでてから第十巻がでるまでには、じつに十年ものあいだがあり、いいかえれば、アメリカのバローズファンたちはその長い年月を、このつぎはどんな話だろう─どんなすばらしい冒険かしら──と、むねをふくらませてしんばう強くまったのでした。
 そして、バローズが十巻め(十一巻はまえに書かれたジョン=カーターを主人公にした短編小説をまとめたもので、書かれた年代からいくと、十巻がいちばんさいごなのです。)を書きおわったあと、一九五〇年の三月に死んでしまったときには、「もう、あたらしい火星シリーズは読めない、ジョン=カーターともおわかれなのだ。」と、ファンたちはかなしんだのです。
 しかし、みなさんだってもう、もしぼくがバローズだったらジョン=カーターをこんなふうにあばれさせるんだがな──みたいなことをきっと考えてみたことがあるでしょう。アメリカでもそうでした。それで、あちこちのバローズのファンたちがそれぞれ知恵をしぼって、あたらしい「火星シリーズ」をいろいろと書いてみたのでした。
 そのなかでもいちばん有名なのは、「火星のターザン」という作品です。密林の王者ターザンが火星にいってジョン=カーターと力をあわせてたたかったなら、どんなにすてきな話ができるだろう―ちょっと考えてみただけでむねがわくわくしませんか。
 ところが、これはみごとな失敗でした。
 ぼくも読んでみましたが、文章がバローズそっくりというだけで、ストーリーにはとてもバローズほどのおもしろさはないのです。こうしてバローズのファンたちは、あらためてかれの想像力のずばぬけたすばらしさをしみじみとかみしめたのでした。

comment

 講談社版第6巻のの解説文全文収録です。
 正直言って、講談社版の解説には新しい発見はほとんどありません。野田さんがあちこちに解説として書いてあることの繰り返しになっているケースが多いからですが、考えてみれば本書の発行は1967年。他の多くの児童向け書籍より早くに刊行されているので、実はこちらが元祖、というネタも、中にはあるかもしれません。とはいえ、バローズといえば創元か、ハヤカワの「SF英雄群像」での紹介が元祖なのは間違いないので、そちらを読めば事足りる、とは言えます。
 わたしがこういう形で書籍の解説を収録しだしたのは、野田さんや厚木さんの解説がいかにも精緻でかつ資料性が高く、わたしの勝手な解説も実はそうした解説文の出来の悪い繰り返しでしかない、ということを思い知らされたからです。
 そうであれば、いっそ元ネタである本家の解説を紹介したほうがずっとバローズのことをわかってもらえるに違いない。そう思って、最初は創元版『火星のプリンセス』の解説を一生懸命書きうつし始めたのでした。しばらくで、スキャナー購入を機にOCRに転向しましたが。
 そういうことでいえば、現在の全文転載はそろそろ潮時というか、考えるべき時期に来ているのかもしれません。せめて、何か新しい発見があった時だけにするとか……

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