ERB評論集 Criticsisms for ERB


野田昌宏「バローズと怪獣」

講談社 火星シリーズ9『火星の合成人間』解説より

Jul.1967


 「火星シリーズ」に出てくるいろいろな火星の生物をひとつひとつ整理してみませんか。
 あんまりいろいろな生物がつぎからつぎへと出てくるので、みなさんはあらためてびっくりしてしまうのではないでしょうか。
 日本でも、このごろは怪獣が流行しているので、みなさんもきっと、怪獣についてはたいへんくわしいと思います。火星シリーズには、エドガー=ライス=バローズの考えだした怪獣がたくさん登場しますが、どれも、すごいやつばかりなのには感心します。
 たとえば、「火星のくも人間」に出てくるカルデーンというやつ。頭からじかに六本の足がはえていて、胴体がありません。しかし、うまいことに、火星にはライコールという首のない人間がいて、こいつにカルデーンが寄生している―−というのですが、五十年もむかしに、よくもこんな怪獣を考えだしたものですね。
 それから、「火星の空中艦隊」に出てくる植物人間という怪獣もすごいですね。背の高さが四メートル。ぞうの鼻みたいなうでの先に口がくっついていて、目は一つ、毛の太さがみみずほどもあって、足のかかとからつま先までが九十センチ。十五センチぐらいの子どもが脇の下にぶら下がっているというのだから、なんともグロテスクなやつです。
 こんな怪獣をつぎからつぎへと考えだしたのですから、バローズという人は、やはりたいへんな人だったのです。イマジネーション――いろいろなものを空想する力とでもいいましょうか――が、これほどまでにゆたかな作家はほんとうにめずらしいようです。
 バローズの作品へのすばらしい人気の原因は、やはりここにあります。
 今日、アメリカで活躍しているSF作家の大部分の人は、なぜSFがすきになりましたか、という質間にたいして、子どものころ、バローズの〈火星シリーズ〉を読んだのがきっかけです、と答えている人がたいへん多いのです。
 アメリカのある天文学雑誌が、「バローズの火星の描写は、こことここが科学的でない。」と悪口を書いたところ、何千通もの反対の手紙がきたそうです。「バローズの火星は天文学的には正しくないかもしれない。だけど、バローズが組み立てたその火星の世界――つまり、バローズのイマジネーションの中の火星世界はそれなりに科学的なのだ。」というわけです。
 ぼくもそれでよいのだと思います。

comment

 講談社版第9巻のの解説文全文収録です。
 本叢書の野田さんの解説の調子そのままです。野田さんといえばべらんめぇ調の野田節が有名ですが、あれは早川書房の出版物での話。講談社は以前は小学生向けの学年誌も出版していた会社なので、拡張が求められたのでしょうか? しかし、怪獣はないだろう、と思います。まあ、本書が刊行された前年の1966年7月からは初代ウルトラマンが放映されておりますし、この解説文の執筆は放映中もしくは直後なのは間違いないので、大怪獣ブームのさなかではあったのでしょうね。

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