ERB評論集 Criticsisms for ERB


吉岡平『あとがき ヴァージニア州はアメリカの福島県だった!』

ソノラマ文庫刊南軍騎兵大尉ジョン・カーターあとがきより

31 Jul.2005


 僕にとってERB(エドガー・ライス・バローズ)は神々の一人でした(ちなみに他の神々はといえば、松本零士だったり安彦良和だったり、戸川純だったりします)。ですから今回の試みは、神をも恐れぬ冒涜です(笑)。いやあ、それにしても楽しかった。よくアニメで言われる「思い上がるな○○! 神にでもなったつもりか!?」という台詞が、これほど実感をもって体感できようとは……。
 『火星の土方歳三』を書いている時、「土方の研究書は、腐るほどある。でも、火星に行ってからの土方に言及しているのは、俺だけ」とか、周りにほざいてました。で、思ったのです。「そういえば、火星に行くまでのジョン・カーターって、どんな奴だったの?」
 閃きました(爆)。
 閃きを本にするまで、一年かかったけど、まあ思い付いたことは大抵やってしまうのが、吉岡平ですからね。こんな馬鹿なこと、他に誰もやらないでしょ。

 ジョン・カーターの地球時代についてわかっていることは、ヴァージニアの出身で、南北戦争で零落した、元南軍の大尉ということくらい。他はほぼ、何を書いても自由です。実は、生年にもバローズは言及していません。ただ、一八六六年にアリゾナの洞窟から、火星に飛んだというくらい。そこから逆算して、まあ一八三〇年代の生まれかなと……。だとすると、やはりハレー彗星の年に生まれたというのが、美しいんではないかと……。となると、同じ年に生まれた著名人を調べているうちに……あ、こいつは使える! という奴に行き当たりました。それが本件にも登場するクレメンスですが、彼のペンネームに触れるのは興ざめでしょうからここではただ平岡公威や平井太郎の同類だよ、とだけ申しておきます。ああ、俺もペンネームにしときゃよかった。吉岡平、ガチガチの本名だもんなあ……。ただ本名は『ひとし』で、ペンネームはもう、いもいも訂正するのも億劫だから、『たいら』でもオッケーです。

 マーチ従軍牧師に関しては、まあ知らない人はいないと思いますが、世界一有名な、例の四人姉妹の父親です(もっとも、あの物語が有名なのは日本だけで、本家アメリカでも、最近はまず誰も読まないとか。カルピス劇場が逆輸入されて、その存在を知ったというアメリカン・オタクも多いそうです。余談ですが『フランダースの犬』も、現地フランドル地方では忘れ去られた存在です。『坊っちゃん』を読んだことない大学生が多数派を占める現在、責められたことではありませんね、はい)。あれは僕が知る限り、スペシャルを入れて三度はアニメ化されていますね(続編や、絵本ビデオの類は含まず)。ちなみにいちばん有名なカルピス劇場では、作家志望の次女が原稿を持っていく編集者が、クレメンス(のペンネーム)に言及しています(もちろん、そんなシーンは原作にはありません)。スランプ気味の次女を発奮させるために、「あの跳び蛙の作者は天才だ」とか言うんですよ、これが。
 そうそう、クレメンス繋がりでもうひとつ。
 『カムイの剣』は傑作ですが、アニメ版はいただけません。主人公はアメリカで、クレメンスに会うんですが、そのシーンでクレメンスは、三つ揃いを着た新聞記者姿であるにも拘らず、堂々とペンネームを名乗っちゃってます。ありえね〜! まあ、クレメンスじゃ誰だかわからないからという、配慮なんでしょうけど、あのシーンでわたしゃ、思いっ切りひいたね。だって、背広着た官僚の平岡公威さんが、お仕事で手渡す名刺に三島由紀夫と刷ってあるようなものなんですよ、それって。故・矢野徹先生の名誉のため書き述べておきますが、おそらく原作ではきちんとクレメンスとなっていると思うのですが……手元に原作本がないので確かめられません。あの頃の角川文庫って、ある意味いちばん人手しにくいからなあ……。

 南北戦争の銃器を調べていて、いちばん面喰らったのは、両軍とも主力火器が『施条式マスケット』と表記されている点です。マスケットを辞書で引くと、『銃身に施条のない銃。滑筒銃』とあります。でもって、施条のある銃は要するにライフルですね。いったい『施条式マスケット』はマスケットなのか、ライフルなのか、悩みました。結局この謎は、「施条のない先込め銃(マスケッ卜)が、一斉に施条された後装銃(ライフル)に変かったわけではない。その途中で、施条があってしかも先込め式の、つまりは『施条式マスケット』の時代が暫くあったのだ」ということで結論を見ました。南北戦争は、まさにその過渡期に起きた戦争だったのです。そして、ややタイムラグを置いて我が国で勃発した、明治維新当時の、一連の動乱もです。
 南北戦争は調べていくと面白いです。ジョン・デンバーのヒット曲『カントリーロード』で有名なウェスト・ヴァージニア、あの辺りが特に激戦地です。歌詞にもあるシェナンドア川流域なんて、ほとんど水ではなくて血が流れているんじゃないかというくらい、人が死んでいます。そういうことを考えながら聴くと『カントリーロード』も、まったく別の曲に聞こえます。

 ともかく、今回思ったこと。ヴァージニアって、つくづくアメリカの会津だなあ……ということ(笑)。あれほど戦争で荒廃した上に、戦後処理で辛酸を嘗めた州(藩)はないでしょう。ジョン・カーターがつまり、日本でいえば会津の、玄武隊の生き残りなのだと思っていただければ、また味わいも格別なのではないでしょうか?
フランシーヌの命日に       著者

comment

福島ですかー。あれですね、今年の大河ドラマとか。そして、昨年の映画ジョン・カーター。タイミングが合っていれば、朝日新聞社も復刊してくれていたんでしょうか。

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