ERB作品感想文集


『石器時代から来た男』

Illustrated by Motoichiro Takebe

この本の表紙絵は権利者である故武部本一郎夫人・武部鈴江さんの許諾により転載しています

創元推理文庫SF「石器時代から来た男


「石器時代から来た男」について

by 別所信次

筆者は表記の小説を23年前に一度、そして今回と2回にわたり詳細な検討を加えた結果、以下ののことが判明したので報告いたします。

この小説は次の三点の特徴を有し、これらの特徴から判断される事はバローズのファンにとって必読書であるという事である。この結論の推定には筆者の大胆な仮説が用いられているが、一般的な推定を行なってもターザンのファンにとっては必読書であるという結論に達すると考えられる。以下にその特徴を記述し説明する。

特徴その1:ターザンシリーズの間奏曲
この話にはターザンというよりはグレイストーク卿が出てきます。ジャングルに戻りワジリ族と共に農場を築き落ち着いた生活をしているターザンいやグレイストーク卿が出てきます(なんか少し植民地的)。でも、こういう作品がある事でターザンの実在感がぐっと増して、ターザンがまるで生きているような存在に思えてきます。読書に明け暮れた海千山千のおっさんでも、虚構の上での実在感(なんだそりゃ)を感じます。そういった意味でターザンシリーズの間奏曲でしょう。その他の小品での登場人物も出演しているし、メインのお話以外にも楽しめる所が大きい。

特徴その2:タイムスリップSFのはしり
バローズ自身はぜんぜん意識していないが、タイムスリップで石器時代と現代を行き来します。タイムトラベルではなくタイムスリップSFというものがこれより前にあったかどうかよく分かりませんが、何もしかけを使わずに地震に依って石器時代と現代を往復するという事をやったのは早いのではないでしょうか。バローズ本人がこの仕掛けを知らずに使っていて説明がない為に、当時の読者は理解に苦しんだでしょう。

特徴その3:時間を超える愛と冒険
やはりバローズです、これがあります、石器時代の男と現代の女性との間にかよう時代を超えた愛。「高貴な野蛮人」、純愛、冒険などなど盛りだくさんです。決して失望する事はありません。そしてエンディング、石器時代の男と石器時代の娘そしてその生まれ変わりである現代のアメリカ娘その三人をめぐる物語はいかにして終るのか。あっと驚くバローズらしくない終わり方をします。残念ながらここでは言えません。

 最後の点については内容を明らかにする事は出来ないが、一度本書を手にとる事をお勧めする。


ホームページ | 感想文集