バローズ世界の文化 Culture of ERB Worlds

金星の歴史
History of Amtor


樹上都市国家ヴェパジャとソーリスト

 何百年も前のこと、歴代のヴェパジャ王は大国を治めていた。それはいまの国がある森の島ではなくて、千の島を含む広大な帝国であり、ストラボルからカーボルまで広がっていた。広い大陸や大洋も含んでいた。強大な都市が光彩を添え、史上、空前にして絶後、何ものにも凌駕されぬ富と商業を誇っていた。
 当時のヴェパジャ人は千万を数えた。商人が数百万、賃金労働者が数百万、奴隷が数百万いた。頭脳労働者階級は少なかったが、この階級には、科学、医学、法律、文学、創造的芸術等の知的職業を含んでいた。軍事的指導者は全階級から選ばれていた。これらすべてに、世襲の王が君臨していた。
 各階級間の境界は、明確に限定されたものでもなく、厳重に定まったものでもなかった。奴隷が自由人になることもできたし、自由人は能力の限度内では、王を除くなんぴとにもなることができた。社交においては、四大階級が、たがいに混合することはなかった。ある階級の一員は、他の階級の一員とほとんど共通点をもたなかったが、それも、優越感や劣等感を伴わざるをえないという事実にもとづいていた。しかし下層階級の一員が、教養か、学問か、素質にすぐれて、上層階級に地位を得たならば、同じ立場で迎えられて、過去の経歴をとやかくいわれることはなかった。
 ヴェパジャは栄え、幸運だったが、不平家がいた。怠け者で無能のやつらだ。その多くは犯罪者階級に属していた。彼らは、自分たちには精神的にそれだけの能力がなくて到達できないくせに、すでに獲得している人々を嫉んだ。長期間にわたる小さな不和、紛争の責任は彼らにあったが、そうした地位を、人々は彼らに注意をはらうこともなければ、一笑に付すこともしなかった。そのうちに彼らは指導者を見つけた。それはソーという名前の労働者で前科首だった。
 この男は、ソーリストとして知られる秘密結社を創立し、ソーリズムと呼ばれる階級憎悪の教義を説いた。虚偽の宣伝によって、多数の追従者を得た。彼の全エネルギーをただ一つの階級との対立に向けたとき、他の三階級の何百万というすべての人々をひきつけた。もっとも、商人や鯛貸金労働者(この中には農民階級も含まれるが)の中には、当然のことながら、転向者はほとんどいなかった。ソーリストの指導者の唯一の目的は、個人的な権力と、勢力の増大であった。彼らの目的はまったく利已的だったが、無知な大衆のあいだでのみ仕事をしたから、おひとよしの大衆を欺くのにさほどの困難はなかった。大衆はついに誤った指導者のもとに、血なまぐさい革命に決起し、世界の文明と進歩は滅亡の響きを立てた。
 彼らの目的は、知識階級の完膚なき絶滅にあった。彼らに反対する他の階級の者は、征服され全滅させられるはずであった。王と王族は殺されるはずであった。これらのことが成就されると、国民は絶対的自由を享受するということだった。主人も税金も法律もなくなるはずだった。
 彼らは、知識階級の大半と商人階級の大部分を殺すのに成功した。次に、国民は扇動者がすでに知っていたこと、すなわち、だれがが支配せねばならないのだ、ということを悟った。ソーリズムの指導者は、まさに政権を引き継ごうとしていた。国民は、経験に富んだ知識階級の慈悲深い規律を、強欲な無能力者と空論家の規律と交換した。
 そういうわけで、彼らはすべてを事実上の奴隷制度に変えた。軍隊組織のスパイが国民を監視し、戦士の軍隊は国民が支配者に刃向かわぬよう見張った。国民は悲惨であり孤立無援であった。
 王とともに逃げた知識階級は、遠い無人島を捜し出した。そして樹木都市を、地上のはるか上に建設したのだ。都市は地上からは見られない。亡命した知識階級者たちは文化をたずさえてきたが、他にはほとんど何も持ってこなかった。だが、彼らの欲求は少ないから、幸福であった。もしできるとしても、いまさら古い制度にもどる気はない。彼らは、分割された国民は幸福でありえないという教訓を学んだ。階級的差別がほんのわずかでもあるところには、ねたみやそねみが生まれる。しかるに、新ヴェパジャにはそれがない。彼らはみな同じ階級である。われわれには召使いはいない。しなければならぬことが何かあれば、召使いがするよりもちゃんと自分でする。王に仕える者ですら、卑しい仕事をする人という意味では召使いではない。彼らの地位は名誉職とみなされているし、ヴェパジャ人の大部分は交替でその職務についている
 では、どうして地上はるかに高く、樹木の中での暮らしを、選んだのか?
 長年のあいだ、ソーリストは亡命ヴェパジャ人を殺そうとして狩り立てていた。そこで、彼らは隠れた。ひとの近づきにくい場所に余儀なく住むことになった。都市をこの形態にしたのは、問題の解決になった。ソーリストは、いまなお知識階級を捜している。いまなお、ときたま襲撃してくる。だがいまではまったくちがった目的のためだ。知識階級を殺そうとしてではなく、できるだけたくさん、生捕りにしようとしている。
 国家の頭脳を殺したり追放したりしたので、彼らの文明は低下し、病気が蔓延し、それを食い止めることもできないでいる。老人がふたたび出現し、死者が続出している。そこで、彼らは自分たちには生み出すことのできない頭脳や技術や知識を捕えにやってくる。それはただ、知識階級だけがもっているものなのだ

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