ERB評論集 Criticsisms for ERB


関口幸男「バロウズと私」

ハヤカワ文庫SF月人の地球征服解説より


 私がまだ鼻垂れ小僧の時代にターザンがはやりました。映画を見るといえばターザン、漫画を読むといえばターザン、ラジオもターザン、夢にまでみたターザン。
 周囲を山にかこまれ、あたり一面田圃と畑、文化の浸透がきわめて緩慢な、私の育ったあの片田舎ですら、ターザンは少年たち共通のヒーロー、アイドルなのでした。今にして思えば、当時の日本全国でのターザンの人気は、まさに想像を絶するものであったのにちがいありません。
 それぼどターザンに熱中していた私でしたが、むろんその生みの親がバロウズだとは夢にも知りませんでした。また、そんなことはどうでもよい年頃でもあったわけですが。長じてターザンとバロウズがつながり、彼のSF的作品に食指を動かすようになったのは当然のなりゆきだったと思います。ベルシダー・シリーズ、火星シリーズ、金星シリーズ、ムーン・シリーズ……と。果たせるかな、ターザン物に劣らぬ面白さ、ストーリーの展開の鮮やかさ、流れるような筆の運び。あまり運びすぎて、ところどころにチグハグな箇所が敬見されますが、まあ、そんなのは小さいことだ、まけてやる、といいたくなってくるから不思議です。
 私の場合、どのシリーズの主人公にもターザンの面影が二重写しになってつきまとっています。というのは、どの主人公もターザンの分身であり、つまりその正義感、善と悪とにはっきりとけじめをつけないではおかない、潔ぺきな性格を共通にそなえていると感じられるからです。もう一歩つきつめれば、バロウズの主人公たちには、彼の人柄がそのまま反映されているのだといえましよう。パロウズは、自分の理想を主人公に托し、作品の中で思う存分活躍させているわけです。そして、読者のひとりひとりが読み終わって、ああ面白かった、というひとことを口にしてくれたら、それでいいのではないでしようか。
 ここに訳出したのは、1巻の解説にもありますように枚数の関係で〈月人の地球征服〉と〈レッド・ホーク〉とを1冊にまとめたものです。
 1巻の〈月の地底王国〉は月の地下世界を舞台とした、ストーリーが目まぐるしく展開するSF的色彩の濃い冒険物語に仕上げてありました。〈月人の地球征服〉は舞台を地球に移し、ヨーロッパの中世に立ちかえったような社会で地球人が月人に徹底的にしいたげられる様を、ジュリアン一家とその近隣の人々を通して克明に描いたどちらかといえば静的な、時代劇的なニュアンスの強い作品であり、〈レッド・ホーク〉はいまや荒野と化したアメリカの西部でジュリアンを中心とする地球人がいよいよ月人を海へと追いつめていく、バロウズの真骨頂である動きの多い、ウェスタン的色合いを織り混ぜたスペクタクルな物語となっています。
 ムーン・シリーズは従って、それぞれの編に娯楽小説の異なったジャンルの特色が生かされてあり、独立させて読んでも面白いものですが、やはりなんといっても、このシリーズは全体を一大長編と見るベきだと思います。そうしてはじめて、月と地球をまたにかけた、スケールの大きい、SF小説ならではの醍醐味が満喫できるのではないでしようか。
 最後に私が特に興味をひかれたのは、〈レッド・ホーク〉の中で日本人一族とミク・ド(みかど)が登場していることです。バロウズは日本人をえらく小人扱いしていますが、顔立ちが端正で、恩義に厚い一族として扱っていることでかんべんしてやることにしました。
 なお末尾になりましたが、本シリーズの翻訳にあたっては、森編集長はじめ竹上氏ほかの皆様に多大のお世話をいただきました。深くお礼を申し上げます。

昭和45年9月

(訳者)

ホームページへ | 評論集へ