金星シリーズ5 VENUS series 5
その他のSF作品 other science fiction story

金星の魔法使
Tales of Three Planets(1964)

Illustrated by Motoichiro Takebe

厚木淳:訳/武部本一郎:画/リチャード・リュポフ:解説 東京創元社/創元推理文庫601-16/1970.09.11初版/333頁

この本の表紙絵は権利者である故武部本一郎夫人・武部鈴江さんの許諾により転載しています

story/あらすじ

 金星に不時着して、波瀾万丈の活躍を続ける地球人カースン・ネーピアは、最後の冒険として、美女を自由自在にけものに変える強力な魔法使いと対決することとなった。無気味な中世風の城を舞台に、魔法使いの催眠術とカースンのインド仕込みのテレパシーが火花を散らす一騎打ち。金星シリーズの掉尾を飾る一編と、旧石器時代の男が現代アメリカに生還した悲劇を描く「5万年前の男」、それに作者晩年の力作として逸すべからざる「さい果ての星の彼方に」全3編を併載する。

chapters/もくじ


characters/登場人物

『金星の魔法使』
カースン・ネーピア 地球人、本編の主人公
イロ・シャン ハヴァトゥーの戦士・生物学者
モーガス ギャヴォの魔法使
ヴァナジャ パンダル家の娘
『さい果ての星の彼方に』
タンゴール 第2次大戦で戦死したアメリカ人
ハーカス・イェン ユニスの精神分析学者
ハーカス・ドン その息子
ヤモダ その娘
バルゾ・マロ タンゴールが惑星ポロダで最初に会った娘
モーガ・サグラ カパラに亡命する娘
ガラル カパラの秘密警察ザボの長官
ハンドン・ガール ユニスの諜報員

history/初出

Tales of Three Planets,Canaveral Press,1964

comment/コメント

 この単行本(短編集)の中で、カースン・ネーピアの金星シリーズものは、「金星の魔法使」1編のみ。しかも作者の死後10年以上を経て発見された作品ということで、正確には金星シリーズに組み入れないことも多い。おそらくは連作短編集(バローズの後期の作品に多い形態)を意図した作品だろうが、大戦の影響もあって1編しか書かれなかったものと思われる。
 「さい果ての星の彼方に/第2部タンゴール再登場」も死後発見された短編。これに単行本未収録だったSF短編「さい果ての星の彼方に/第1部ポロダ星での冒険」と「5万年前の男」の2編をを合わせて短編集としたのが本書。
 2編の「さい果ての星の彼方に」はポロダ・シリーズとでも呼びたい作りで、異世界づくりといい、住民設定といい、相当力が入っている。主人公タンゴールの設定はジョン・カーターらとは対極をなすもので、作品全体の世界観も厭世観というか厭戦感というか、複雑な色合いがあって興味深い。ポロダ星への移行方法など、「火星のプリンセス」を意識しているようにも思える。30年ぶりに書き直した『火星のプリンセス』といったところか。
「5万年前の男」については特に言うべきことはないが、一見「石器時代から来た男」を思わせるストーリーから、チープともいえるラストまで、以外と楽しめる。異色のSF短編集として、バローズの才能の豊かさには目を見張らされる。

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