金星シリーズ(VENUS series)

Ilustrated by Motoichiro Takebe
Venus series volume 4:"Escape of Venus"


series list/シリーズ・リスト

  1. The Pirates of Venus,1932
    "Pirates of Venus",1934
    『金星の海賊』厚木淳:訳/武部本一郎:画、創元推理文庫601-12
    『金星の大海賊』永井淳:訳/遠藤拓也:画 角川文庫 赤706-4/1968.10.31初版/250頁/150円
  2. Lost on Venus,1933
    "Lost on Venus",1935
    『金星の死者の国』厚木淳:訳/武部本一郎:画、創元推理文庫601-13
    『金星の死者の国』永井淳:訳/遠藤拓也:画 角川文庫 赤706-5/初版30Jun.1969/p300
  3. Carson of Venus,1938
    "Carson of Venus",1939
    『金星の独裁者』厚木淳:訳/武部本一郎:画、創元推理文庫601-14
  4. Slaves of the Fish Men,1941
    Goddes of Fire,1941
    The Living Dead,1941
    War on Venus,1942
    "Escape of Venus",1946
    『金星の火の女神』厚木淳:訳/武部本一郎:画、創元推理文庫601-15
  5. The Wizard of Venus,1964
    「金星の魔法使」厚木淳:訳
    "Tales of Three Planets",1964
    『金星の魔法使』厚木淳:訳/武部本一郎:画、創元推理文庫601-16(短編集)

comment/コメント

 〈火星シリーズ〉との関連でにたようなものと思ってこの〈金星シリーズ〉を手に取ると、びっくりすることになる。バローズ後期の作品だけに、一筋縄ではいかない工夫がたくさんひそんだ構成になっているからだ。
 厖大な遺産を相続した冒険好きな青年カースン・ネーピアはジョン・カーターにあこがれて宇宙船を駆って火星を目指すが、月の重力を計算に入れておらず、軌道が変わって金星に漂着してしまう。アムターと呼ばれる金星は厚い雲の下、怪獣が跋扈する別世界で、ネーピアは革命闘争に巻き込まれ、王女ドゥーアーレーを救う冒険にでることになる。
 冒頭からペルシダーにターザンがいったエピソードはでるは、バルスームはでるはの集大成だが、一方で全編にわたって政治的社会的問題が正面切って語られるという意欲作にもなっている。バローズ後期の作品群だけに当初の作品の魅力でもあったまか不思議な叙情に乏しい感もないでもないが、大衆作家でありながら大衆におもねるばかりでもない(かといって暴走もしない)バローズの思想性がよくでていて、興味深い。
 もう少し詳しく見ていくと、第1巻ではコミュニストが、第2巻では計画社会の陰影が描かれ、第3巻ではナチズムが正面から批判されている。第4巻は一転していろんな空想獣(BEMとよんでよいものやら)が登場する娯楽中編連作。第5巻は、といってもこれは死後発見された金星シリーズの短編(1編だけ)に他の単行本未収録短編作品を併録した短編集であり、尻切れトンボの短編よりは見るべき点は他の短編の方にある。
 金星シリーズ全体でいうと、バローズとしては最後期のシリーズだけにこなれてはいるのだが、初期の火星シリーズや地底世界シリーズなどがもっていたおどろおどろしさ、夢想性などが弱い気はする。異世界づくりも堂に入りすぎていて、興味深くはあるが、何か読者におもねって、喜びそうなメニューをそろえましたという感じで、真剣みが薄い。厚木淳氏が解説でも述べているように、これはバローズが社会問題を語るために創造したシリーズと定義すべきなのだろう。
 ちなみに、このシリーズの第1、2巻には角川文庫版もある。読むに耐えない出来だそうだが、興味深い。しかし、角川春樹がいたころの角川書店はさすがだ。

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